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「どうしたの、なんか目にクマを作っているみたいだけれど」
榎宮みずきが、クラスメイトである日野カノンに声をかけた。
榎宮みずきはカノンが在籍するクラスの委員長だ。委員長という仕事はクラスメイト全員に気をかける必要があるから、学業以上に忙しくなってしまうのだという。
それはそれとして。
「いいや、大丈夫。……ありがとう、榎宮さん」
その言葉を聞いて、彼女は笑みを浮かべ立ち去っていった。
_ ◇◇◇
ちょっと遠いところにて。
正確にはクラスの対角線上にて。
平城ほのかがみずきに声をかけた。
みずきはほのかの前に腰かけて、首を横に振る。
「そっか……」
そう言って二人はほぼ同じタイミングで弁当箱を取り出した。
今は昼休み。中学校の大半が弁当ということになっているため、彼女たちがいる学校も例にもれず、昼ご飯は家から持ってきた弁当となっているのだった。
「……どう思う?」
昼休みの喧騒に消えてしまいそうなくらい小さな声でみずきは言った。
対してほのかはミートボールを口に入れて、
「うーん、たぶん、というか確実に悪夢を見ていると思うんだよね。一度、夢の中に入ってみる価値はあるかもしれない。前の柊先生のようにヴィランズに乗り移られないうちに」
ヴィランズ。
人々の夢から作り出される結晶、ドリームジュエルを欲するために人々の夢に住み着いている、人間の敵である。
なぜ彼女たちがそのような話をしているのか?
答えは簡単だ。
彼女たちがヴィランズと日夜戦う、正義の戦士『プリティードリーマー』だからである。
夜。
みずきとほのかはある場所に居た。
白色を基調としたシンプルな部屋だった。
そしてベッドの上では日野カノンがすうすうと寝息を立てて眠っている。
「これだけを見るとヴィランズが居るようには見えないけれど……」
黒いフリルのついたドレスを身に纏ったほのかはカノンの表情を見てそう言った。
「でも油断しちゃだめよ、ほのか。前もそういうケースがあったでしょう? それに、ヴィランズの潜伏状態は、外面に現れることは無い、って。それはハピちゃんも言っていたことだし」
「そうハピ!」
みずきの足元にはわたあめのようなピンク色のもふもふが居た。正確に言うと、そのもふもふには目も口もついているので、何らかの生物であることには間違いないのだが。
その名前はハピネス。
彼女たちとともに行動する『ドリームランド』の妖精だった。
白いフリルのついたドレスを身に纏ったみずきはハピネスを見て、
「……ほら、ハピちゃんもそう言っているし!」
「うーん。まあ、そうだよなあ。確かにそれはそうだって、知っているけれど。でも何というか心に引っかかるんだよなあ……」
「そう? まあ、別にいいけれど。取り敢えず、行きましょう。ヴィランズが居るか居ないか……それは実際に夢の中を見ないと解らないのだから」
そうだね。とほのかは言って、コンパクトにカノンの身体を映し出す。
するとカノンの身体に黒い渦が浮かび上がった。
この渦が黒い――それは即ち夢がヴィランズに侵略されていることを示していた。
「……やっぱり」
「こう解ったら急いで助けるしかない。行くよ、ほのか!」
「合点承知!」
そうして二人は黒い渦へと飛び込んでいった。